オヤジスキーどもの穴(連載小説用ブログ)
ゆずかほるの連載小説掲載用ページ。ここに掲載する小説には男性同士の恋愛および性描写が含まれますので、18歳未満の方・BL・やおい・同性愛等に不快感を抱かれる方は今すぐ退散してください。


プロフィール

ユズカホル

Author:ユズカホル
サークル名:BUCK÷STYLE/自称スケベビッチ・オヤジスキー。中学生の頃には既に自他共に認めるオヤジ好きを確立。よって小説の登場人物は平均年齢高め。ジャンルはハードボイルド系JUNE。ちょっと後ろ暗い感じのする小説を書くのが好み。
【イベント参加のお知らせ】
GOOD COMIC CITY 15 への参加が決定しました☆
08年8月30日(土)東京ビッグサイト
配置は東6ホール・タ・15aです。
立派な新刊はありませんが、コピー本だけは持参しようと頑張って執筆してます!内容はヒゲオヤジシリーズの番外編かな?お楽しみに〜v



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5 雨(2/2) 【注意:キスシーンあり】
※注意:今回は曲がりなりにも男×男のキスシーンがあります。(Hはありません。)

以下、本文
======

 会社の倉庫が視界に入ってきた辺りで徳川の携帯電話が振動を始めた。徳川はディスプレイを確認してから保留した。左ウィンカーを点滅させながらスピードを落とす。道路と歩道の段差で車が揺れないようにと気遣いながらステアリングを左に切る。それでもなんとなく気配を察したのか、助手席で眠っていた向田が目を覚まして起き上がった。大きな欠伸を一つ。それから伸び。眠そうに目をしぱしぱさせている。
 徳川は事務所の前に車を横付けにして停めた。
「おはようさん。先に事務所に上がっててくれ。本多さんが待ってる」
 眠ってしまったことを一言詫びて、向田は車を降りた。
 徳川は懐から携帯電話を取り出した。
「待たせたな」
 電波の向こうでは『今、大丈夫ですか』と加藤の声。
「ああ。たった今、会社に戻ったところだ」
『あ、お疲れ様でした。しょーちゃんは?大丈夫そうですか?』
「やっと明るくなったよ。弓削さんたちが本気で動いてくれることになったから。俺も一安心だ。心配してくれていたのか?」
『ええ、まぁ。でも電話したのは別件で。実は権藤親分のところに呼ばれたから、連絡しておこうと思って。木庭さんの兄貴分の嶋村さんってひとが例の尾張者を捕まえたらしいんだ。だから僕に顔を確認して欲しいって言われて』
 加藤に告げられたことに、徳川は舌打ちをして小声で『馬鹿が』とつぶやいた。徳川の知らないところで回状でも出されていたのだろう。
「いいか蒼士。余計な動きはするなと伝えろ。つまらないことで組の看板に傷を付けるなと。その尾張者は無事なんだろうな?フクロにされる前に警察に突き出せ。警察が本格的な捜査に乗り出すから、もう動くことはない。動いちゃならないと言うんだ」
 電波の向こうで加藤が『えーっ』と言った。
『だぁーって僕が言って聞いてもらえるもんじゃないでしょー。僕は下っ端っていうよりアウターなんだからさぁ』
「俺からの伝言だと言えばいい」
『ヒロさんからの伝言でも駄目だよ。だって親分の命令で』
「じゃあ権藤先生にそう伝えろ」
『なおさら駄目だって!ヒロさん来てよ』
「そういうわけにはいかないだろう。俺は松院から離れるわけにはいかない。松院を連れて行くわけにはいかないだろうが」
『連れてくることないじゃん。悪者は捕まってるんだし。そうだ!悪者はヒロさんが突き出しに行った方が弓削さんも納得するんじゃない?』
「ばっ・・・!だから俺が行くわけには・・・・」
『だってそうでもしなきゃ嶋村さんたち尾張者に何するか分かんないよ』
「ああ、もういい!」
 バカヤロウと言い損なったまま、徳川は電話を切った。すぐさま木庭にかけなおす。
「ああ、木庭さん。嶋村の携帯の番号は分かるか?・・・ああ」
 木庭からの返答を待ちながら、徳川はボールペンの背でこめかみのあたりを掻いていた。すると
「博康」
 その声に徳川は心臓を鷲掴みにされた。たった一言の衝撃に手元が狂ってボールペンを取り落とす。ボールペンはカツンと音を立ててシートの間に消えた。
「出て来い。さもなくば尾張者は始末する」
 プツリと切られた。
 徳川はしばし固まったままだった。徳川は眉間に皺を寄せて携帯電話を助手席の上に放りやった。ステアリングに拳を叩きつける。
「何がなんでも俺を引っ張り出そうってぇのか!」
 カッカと頭に血が昇っているのを感じつつ、徳川は車外に出た。事務所の二階に上がると本多が声をかけてきた。
「あらあら。あんまり上がってこないから純子ちゃんに呼んできてもらおうって言ってたところだったのよ・・・どうしたのさ?真っ赤な顔して」
 向田と純子もこちらを見ている。純子が気まずそうに視線を逸らした。純子は徳川が本気で怒ったところを何度か見て知っているのだ。
 徳川は大きく息を吐いた。
「すまん。間違い電話をかけてきたやつがとんだ無礼者でな」
「あ〜いるいる。超ムカツクやつ!」
 向田が笑った。緊張していた純子もふと表情を緩めた。
「なんだい。間違い電話相手に説教してたの?馬鹿だねぇ。お茶がぬるくなっちゃったじゃないのさ」
 本多は徳川の湯呑みを卓から取り上げて流し台に向かった。本多の丸っこい背中を目の端で追いながら、徳川は必死になって冷静を取り戻そうとした。この場での自分は徳川酒類販売店の社長であらなければならないのだ。過去の亡霊がどんなに襲い来ようとも。特に本多には心配をかけたくはなかった。実母に代わって面倒を見てきてくれた大切なひとなのだ。それゆえに徳川の心境をあっさりと読んでしまう手強い相手でもあるからだ。これ以上ややこしいことになるのは御免だった。

 アルバイトたちが帰り、純子には糞真面目な彼氏が迎えに来た。向田は純子の彼氏を見るなりぶーたれた。蓼食う虫もナントヤラというか、純子の彼氏より向田の方が格好良いし背も高い。なんであんな奴に、と面白くないのだろう。
 最後に本多も退社をしたのだが、すぐに引き返してきた。
「ヒロちゃん雨が降り出したよ。今日は蒸し暑かったものねぇ。入梅するのかねぇ。配達が大変だ。とりあえず明日は休みだからいいものの」
 置き傘を取ると、今度こそ本多は帰って行った。花柄の傘が会社の敷地から遠ざかっていくのを窓から眺めながら徳川はホッとした。
「うわ。結構降るね」
 窓辺で静止している徳川の方を見て松院が言った。
「おばちゃん乗せて行ってあげればよかったのに。可愛そうじゃん」
「ん?ああ、そうだな」
 気のない返事を返しながら徳川はデスクトップのパソコンの前に腰掛けた。純子がやってくれた入力の確認をしてデータをモデムに落とす。モデムの作動ランプが点滅した。そこまでの作業を無意識のうちにこなしながら、徳川は権藤の屋敷に行くなら明日しかないと考えていた。
「松院。明日は梶木先生のところに顔見せに行かないか?」
「は?顔見せにって、病院に?」
「ちったぁ肥えるように注射でも打ってもらえ」
「え〜っ。オレ改造人間になるのヤダなぁ」
 徳川は『古いこと言うなぁ』と笑った。
「蒼士と一緒に若いもんだけで楽しんで来い」
「えっ・・・・」
 向田は続く言葉を飲み込んだ。ヒロさんは来ないんですかと。それからまた慌てた。言わなくて良かったと思った。自分がここへ来てから徳川は仕事が手についてないはずなのだ。不用意なことを言ってしまったら、上乗せして徳川に気を遣わせてしまう。徳川と離れることに不安や不満はあるのだけれど、それは単なる我がままでしかない。
「丁度良かった。退院するとき挨拶もしないまんまだったから。でも蒼士にベンベの運転させるの?」
「ばーか。社用のカローラでお似合いだ」
「げぇ。つまんねぇ」
 社用のカローラがどんな車なのか気になったのか、松院が窓辺立った。
「ヒロさん。赤帽さんが来たよ。オレが出ようか」
「いや、いい。勝手に上がってくる」
 なるほど馴染みの運送屋なのだと松院が納得していると、一階の通用口のドアがドンドンと叩かれた。徳川が不快そうな顔になった。
「なんだよ。ヨシムラちゃんじゃないのかよ」
 徳川は舌打ちをして面倒くさそうに椅子から立ち上がった。デスクの引き出しから印鑑を取り出してスラックスのポケットに入れる。同時に護身用のナイフがいつでも取り出せる状態にあることを確認した。確認とはいえ、指先が無意識に行う動作だ。
「電話が鳴っても出なくていいからな」
 徳川はポケットに片手を突っ込んだまま階段を下りて行った。
「どうぞ」
「すんません。手が塞がっていて。開けてもらえますかねぇ」
 徳川はごく普通に、しかし用心深くドアを開けた。よく日焼けをした男が小荷物を抱えて立っていた。
「ムコウダマツインさん?はこちらでよかったですかね?」
 徳川はちょっと見せてくれと送り状を覗き込んでから
「ああ悪ィ。昨日から他所に行っていて居ないんだ」
「預かっていただけませんか」
「後から連絡を入れさせるから持ち戻ってくれるか。何度も足を運ばせて悪いんだが」
「はぁ・・・分かりました」
 男はやや不満そうに首をかしげながら軽トラックに戻って行った。徳川は軽トラックが出て行ったのを見届けてからドアに施錠した。
 手ぶらで上がってきた徳川を見て向田が『あれ?』という顔をしている。
「おまえ宛の荷物だったが、持ち戻らせた。用心には用心をと思ってね。ドカンとやるか変なガスが出るかされちゃかなわないからな」
「赤帽さんがドカンとイッたらどうすんのさ」
「そりゃ時の運だ」
「ひでぇ」
「向田アキラさんって、おまえの兄貴か?」
 アキラと書いてメイと読む。分かっていたが徳川はあえてとぼけた。
「明るいって書いてありました?じゃあ妹です。メイっていうんですけど。でもなんでここが・・・ああそうか」
 松院は独り納得した。長兄の懐音が手回しして送らせたのだろうと。
「品名は衣類、食品となっていたぜ」
「げぇ。着る物と一緒に婆ちゃんの漬物とか入ってるんだ。勘弁してよ〜」
 ムンクの叫びのポーズをしている向田を見て徳川が笑った。
徳川はこのまま何事もなければいいと思った。さっきの小荷物も本当にメイが送ったもので、受け取った向田が喜んで笑顔を見せてくれればいいと。そして、こんな追ったり追われたりの生活にも終わりが来る。明日、自分が権藤の屋敷に顔を出しさえすれば、ことは一段落するのだ。自分が過去の亡霊と向き合いさえすれば。
「メイちゃんに確認してから受け取るといい。そこの電話を使っていいから」
「あ、うん・・・」
 向田は渋っている様子だ。
「どうした?遠慮しなくていいんだぜ」
「あ、いや。明日かけるから」
 中学生のメイはまだ携帯電話を持っていない。直接連絡を取ることが不可能に近い。家に電話をしてほかの兄たちが出てくれたら気まずいのだ。親父なら最悪。せめて祖母が出てくれればラッキーなのだが。こういう私的なゴタゴタを徳川の眼前には極力晒したくはなかった。徳川との間に家庭の事情を挟みたくはなかった。徳川には自分だけを見ていて欲しいと思った。


 外が急に暗くなって大粒の雨が窓ガラスを叩き始めた。バラバラという音の向こうにゴウという風の唸る音も聞こえる。雲が厚くなったのだろう。
 パソコンをシャットダウンしながら徳川が椅子から立ち上がった。
「さて。帰るとするか。退屈させたな。すまん」
「ちょ、ちょっと待って」
 向田は別のノート型パソコンでソリティアをして遊んでいた。ゲームを途中で終了させて、同じくシャットダウンした。
 二人揃って事務室を出る。徳川はセキュリティをオンにして施錠をした。階段に差しかかったとき、遠くに雷鳴が聞こえた。天気は悪くなる一方のようだ。階段を下り切って入り口のドアの前に立つ。ドアの磨りガラスにも雨が叩きつけているのが見て取れた。徳川は向田に上着を渡した。
「ひでぇな。ここで待ってろ。まず車を回してくるから」
 徳川はBMWのイグニッション・キーを右手に持つと、自分が通れる分だけドアを開けて豪雨の中に飛び出した。雨のゴウという音が徳川を飲み込んだ。自分の足元のパシャパシャという音すら聞こえない。と、徳川は背後でドアが弾かれたようなバァンという音を聞いた気がした。そして
「ヒロさんッ!!」
 向田の、悲鳴のような声。身体ごと振り返る徳川。刺客。必死に抗う向田。瞬時にナイフのストッパーを解除して構える。意識とは別のところで反射的に動く身体。豪雨。手元が狂った。ナイフは刺客の腕を掠めた。弾かれてナイフが地面に落ちる。パシャという音は豪雨に飲み込まれた。
 突進した徳川が刺客をタックルで弾き飛ばす。刺客の手からナイフが飛んだ。白刃が街灯の黄色っぽい明かりを受けて一瞬光った。
「行けッ!!」
 徳川は向田の身体を乱暴に押しやった。反動で地面に倒れ込む向田。刺客。濡れた革の上着。起き上がって更に向田に襲いかかろうとする。刺客の手。ナイフが光る。声にならない声。叫んだのは徳川。血に染まったナイフが投げ捨てられた。
 向田の上に覆い被さっていた徳川が身体を反転させて仰向けに倒れた。
「ヒロさん?!ヒロさんッ!!」
 豪雨が向田の悲鳴をかき消す。刺客の黒い影は豪雨の闇の中に消えた。
「ヒロさんしっかりして!ヒロさんてば!!」
 豪雨の中、泣きそうな声で叫ぶ向田の耳に徳川の声だけが届いた。向田は弾かれたように走り出した。1メートルほど手前に落ちていたイグニッション・キーを拾い上げてBMWの右脇に転がり込む。
「違う!左だ!ああもう!!」
 叫びながらようやく運転席に着く。頭の中は真っ白だ。身体が勝手に運転をしている。向田は仰向けに倒れたままの徳川の脇に助手席側を向けてBMWを停めた。徳川は自力で起き上がって座席に倒れ込んできた。
「血を止めてくれ!なんでもいい!傷を押さえてくれ!」
ルームライトの中、徳川の背中が真っ赤に染まっているのが分かった。向田は戦慄した。こんなに大量の血液を見たのは初めてだった。身体がガクガクと震える。
「松院!血を止めるんだ!!」
 ハッとして向田はシャツを脱ぎにかかった。手が震える。ボタンが取れない。髪から落ちてくる雫と涙で目の前が見えない。
「クソッ!」
 シャツの前を勢いよく裂いて、向田は無理やりシャツを脱いだ。濡れたシャツではどれぐらい止血の効果があるのか疑わしかったが、そんなことを考えていられる余裕はなかった。
徳川のシャツの背中。右肩口から大きく裂けていた。向田はシャツを丸めて徳川の傷に押し当てた。
「精一杯押さえろ!」
 苦しげな声で徳川が言う。しかし血の気の引いた向田の腕には力が入らない。向田は半分泣きながら両手の上に額まで押し当ててきた。それでも徳川の血を止めるには不十分だった。徳川は舌打ちした。無理やり身体をひねると、左腕を向田の首の後ろに回して乱暴に引き寄せた。
「・・・・っ・・・」
 徳川の唇が、向田の唇を塞ぐ。
「・・・・は・・・っ・・・」
息苦しくなって開かれた向田の口腔に徳川の舌が割り込む。理性など働いてはいない。貪るような口づけ。徳川の左腕から次第に力が抜けていく。長い口づけの果てに二人の唇は離された。
「・・・って。んなことやってる場合じゃないでしょ!血ィ止めなきゃ!」
 向田は徳川に背を向けさせた。ぴったりと傷口を押さえてくる。向田が正気を取り戻したことにホッとして徳川は瞼を閉じた。

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