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6 刺青(2/4)【注意:キスシーンあり】 |
※注意:今回は曲がりなりにも男×男のキスシーンがあります。(Hはありません。) 以下、本文 ======
向田からの電話を受けて、外科医の梶木達矢が駆けつけてくれた。 『このシートを布団の上に。よし。じゃあ、台所から大きい方のボウルを取ってきて。鍋でもいい。とにかく何かゴミ箱代わりになるものを。買い物袋があれば、それを被せるんだ』 梶木はきびきびとした命令口調で向田を動かした。 必要な物を抱えて戻ってきた向田は立ちすくんだ。恐怖からではない。味わったことのない異様な感覚が向田を襲った。 うつ伏せに横たわった徳川の背中。体格の良い、男らしい背中。筋肉の陰影。そして――刺青。色素の薄い背中に曼珠沙華が鮮やかに咲き乱れていた。 今思えば、徳川のシャツの背中が赤く染まって見えていたのは流れ出た血によるものなのか、それともこの刺青が透けていたのか定かではなかった。それほど曼珠沙華は怪しい緋色をしていた。そして 徳川の背中の中央には悪鬼と化した女の顔――般若がこちらを睨んでいた。 目の前の情景に、向田は身体の芯がカッと熱くなるような思いがした。 初めて目にした、徳川の背中。血に染まった、男の背中。徳川の背中に向田は欲情にも似た感覚に支配された。身体の芯が熱くなるこの感覚。心臓が激しく打って四肢までもが熱くなるこの感覚。 ひとしきり治療を手伝ってから、梶木に身体を洗ってこいと言われた。梶木の目には、血を見るのが嫌でその場を逃げ出すように映ったに違いない。しかし、向田が逃げるように浴室に転がり込んだ理由は別にあった。その理由は梶木に悟られるわけにはいかなかった。 浴室。熱いシャワーに身を晒した。痛いほどの水圧の中で徳川の口づけの感触がリアルに蘇る。熱かった舌。血の匂いのする口づけ。熱い湯が表皮を叩いているというのに、向田の肌は粟立った。向田はシャワーの出口に向けて大きく口を開いた。血の匂いを身体から絞り出そうと必死になった。血の匂いだけではない。徳川の身体を欲している己の感覚を排除しなければと焦った。焦りのあまり涙すら出てきた。 *****
ソファの上。抱えた膝に額を押し付けて、向田は溜息を漏らす。 (バカ。オレってば何考えて・・・) 向田は拳で自分の頭を小突いた。 (だからヒロさん、いつも肌着を着ていたんだ。刺青のせいで・・・) 徳川は白シャツの下にランニングやタンクトップではなく、必ず半袖のTシャツを身につけていた。体格の良い徳川が素肌にシャツを着て胸をはだけたら格好良いだろうなぁと向田は思ったりしたこともあった。 考えまいとすればするほど、徳川の血に染まった美しい背中が脳裏にちらついた。口づけの感触が蘇った。今までに味わったことのない、衝撃にも似た強烈な感覚。その感覚に襲われるたびに向田は身体の芯が熱くなりそうになる。 (だーかーらぁー・・・オレ、やばいって・・・) 徳川の腕で抱き寄せられたことがある。徳川の胸に顔を埋めて泣かせてもらったこともある。今になって思い返して、向田は顔が真っ赤になりそうだった。
どれくらい経っただろうか。向田はハッとした。 (ヤベ!寝ちまった) 引き戸の隙間に注意を向ける。吐息混じりに徳川が唸っているのが聞こえた。時計を見る。 (麻酔が切れたんだ) 向田は慌てて立ち上がった。引き戸をそっと開ける。 「ヒロさん?」 声をかけながら向田は畳の部屋に足を踏み入れた。 「・・・・サミ・・・」 向田はビクリとした。徳川が真実を呼んでいる。短い呼吸を繰り返しながら、うわ言のように。向田は身体の奥がすうっと冷たくなった。徳川の心に自分は居ない。当然だ。厄介者の自分と長年連れ添ってきた真実とを比べる方がどうかしていると、向田は自分に言い聞かせて小さく頷いた。 「ヒロさん?起きてるの?」 向田は徳川の枕元に膝をついて顔を覗き込んだ。油断をすれば声が震えてしまいそうだった。 向田の問いかけに、徳川が虚ろな目を向けた。向田は徳川の額の汗を拭ってやった。 「痛む?」 「・・・・ああ」 「鎮痛剤使おうか?梶木先生が強めのやつを置いていってくれたから」 「いや、いい」 徳川が小さく唸った。 「水をくれるか」 「冷たいやつ?氷水にする?」 「ああ」 向田はさっと立ち上がってキッチンに向かった。 氷水で満たされたグラスを手に、向田は徳川の元に戻ってきた。そして小声で『しまった、どうしよう』とつぶやいた。グラスの水を飲ませる手立てがないのだ。背中に傷のある徳川を水一杯のために起き上がらせるわけにはいかない。抱き起こせるだけの腕力も向田にはない。いわんや先折れストローなんて可愛い代物が中年男の一人暮らしに望めようはずもなかった。 (どうしよう・・・・) 困惑の果て、向田は行動に出た。 「ヒロさん。水、ちょっとぬるくなるけど、いい?」 向田は長い前髪を左手で後ろに押さえると、右手に持ったグラスに口をつけた。最初の一口を飲み下してから、もう一度水を口に含んだ。 向田の唇が徳川のものと重なる。徳川の唇が薄く開かれ、そして喉が鳴った。深い吐息を漏らす徳川。随分と喉が渇いていたのだろう。 「もう少し飲む?」 徳川が目で頷いた。向田は再び氷水を口に含んだ。空になったグラスを畳の上に置いて、その手で前髪を押さえる。畳に左手をつきながら身体を折って唇を重ねる。向田の含んだ水が徳川の口へと流れ込む。徳川の喉が鳴った。徳川の吐息が向田の頬に触れた。 水を与え、身体を起こそうとした向田の手に徳川の左手が触れた。徳川の大きな手が向田の手の甲を上から包み込んだ。掌から熱が伝わってくる。向田は身体を起こさなかった。その代わり再び顔を寄せた。そして徳川と唇を重ねた。あのときと同じ熱い舌。されど口づけは優しかった。向田は涙が溢れてくるのを止められなかった。 「イテ」 徳川が頬を引きつらせた。 「バチが当たったんだな」 徳川は口元を歪ませて笑った。しかしその表情には苦痛が滲んでいる。 「痛いってぇのは生きてる証なんだが」 向田は笑顔を作ろうとして鼻をすすり上げた。 「・・・・ごめんねヒロさん」 向田は徳川の髪を撫でた。すると徳川は左手を伸ばして向田の頬を伝う涙を拭ってくれた。 「おまえを守れた。それでいいさ」 向田が唇を噛んだ。再び熱い涙が頬を伝った。涙が止まらなかった。
翌日には、徳川は自力で起き上がって動き回れる状態になった。徳川はもともと体格が良く、体力もある。しかも怪我慣れしているので、これくらいのことでは寝たきりにはならない。しかし足元は危うい。壁に左手を着きながら、床の感触を確かめるようにして歩いている。 「フラフラする?」 布団に戻って座り込んだ徳川に向田が話し掛けた。 「天井が回ってるよ。早いとこ熱が引いてくれるといいんだが」 「こういうときにはベッドの方が楽だよね。立ったり座ったりだけでも大変でしょ?ソファベッドでもあればいいんだけど」 「ベッドは苦手でな」 向田がくすと笑った。 「そんな感じがする」 向田は新しい寝巻きと治療道具一式を用意していた。 「起きたついでにガーゼ交換しようか」 「ついでだったら身体も拭いてくれるか?甘えて悪いが」 「あ、ごめん。気が利かなくて。ちょっと待ってて」 ややもすると向田は熱い湯を張った洗面器にタオルを浸して持ってきた。徳川が左手だけで器用に寝巻きのボタンを外す。 首から背中を拭いてやりながら向田が尋ねた。 「熱くない?」 「いいや・・・あぁ気持ちがいい」 「熱が下がったら風呂に入れるかな。傷が濡れないようにすれば問題ないだろうし。梶木先生にも訊いとく」 向田が洗面器の湯にタオルを浸している音を聞きながら、徳川は目を閉じている。 「松院」 「ん?何?」 「変なもの見せちまったな。すまないと思ってる」 「変なものって・・・?」 向田が首をかしげていると、徳川は親指を突き立てて自分の背中を指した。 「ああ、刺青のこと?全然変じゃないじゃん。オレ、こんなに間近に見たの初めてだけど・・・すげぇ綺麗だと思う」 「おまえは何も訊かないんだな」 向田は何食わぬ顔で徳川の胸から脇にかけて拭いてやりながら 「ヒロさんが話したければ聞くけど」 向田は『どうよ?』という表情で徳川を仰ぎ見た。 「はい、タオル。変なとこは自分で拭いてください。オレはお湯を換えて来ます」 徳川の寝巻きの股間に硬く絞ったタオルを押し付けると、向田は洗面器を抱えて和室を出て行った。
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テーマ:自作BL連載小説
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【無駄口3】またプロフ写真変えました |

↑サヨナラ シーサー・・・(涙)
またもやプロフィールの写真を変えました。 も〜ほんと。ごめんなさいm(_ _)m
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