オヤジスキーどもの穴(連載小説用ブログ)
ゆずかほるの連載小説掲載用ページ。ここに掲載する小説には男性同士の恋愛および性描写が含まれますので、18歳未満の方・BL・やおい・同性愛等に不快感を抱かれる方は今すぐ退散してください。


プロフィール

ユズカホル

Author:ユズカホル
サークル名:BUCK÷STYLE/自称スケベビッチ・オヤジスキー。中学生の頃には既に自他共に認めるオヤジ好きを確立。よって小説の登場人物は平均年齢高め。ジャンルはハードボイルド系JUNE。ちょっと後ろ暗い感じのする小説を書くのが好み。
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GOOD COMIC CITY 15 への参加が決定しました☆
08年8月30日(土)東京ビッグサイト
配置は東6ホール・タ・15aです。
立派な新刊はありませんが、コピー本だけは持参しようと頑張って執筆してます!内容はヒゲオヤジシリーズの番外編かな?お楽しみに〜v



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7 救い(1/3)
7 救い

 徳川がこれから帰ると電話をよこした。向田は待ちきれずにマンションの1階にあるガレージに下りた。徳川はチェイサー・ツアラーVの方を使ったらしく、ガレージには白いBMW・ALPINA・B3が残されていた。
(当たり前か。血だらけだもんな。どうすんだろ、これ。クリーニングに出すってわけにもいかないだろうし)
 台無しになった8百万円。向田は恐る恐るBMWの内部を覗き込んだ。
「うっそ?!」
 ガレージに響いた自分の声に驚いて、向田は慌てて口を塞いだ。それからBMWの周りを一周した。綺麗なままの室内。シートにもステアリングにも血の跡一つ残っていない。向田はナンバープレートを確認した。車体の右前に回り込んで傷も確認した。小石を跳ね上げてできたであろう小さな傷跡が、もともとこの車にはあったのだ。結果、すべてが元のままだった。
 向田はゾッとした。いくら嶋村たちでもこれはできまい。プロショップで内装を交換したにせよ、もとのシートの始末はどうしたのか。血の跡を始末してくれるような“何か”が徳川の背後にはついているのではないか。“蛇の道はヘビ”と言った徳川の言葉が蘇る。
 先日のガサ入れのときにしろ、徳川には落ち着きと余裕がありありと見えていた。あの弓削でさえ、口調には若干の焦りが感じられたというのに。素人の徳川の方が数段落ち着き払っていた。落ち着いているというよりむしろ相手にしていないといった感があった。
 ガレージのシャッターの向こうに車のエンジン音が聞こえた。リモコン操作でシャッターが上がり始める。チェイサーの白い車体がリヤバンパーから順に見え始めた。車内のバックサイドビュー・ミラーで向田の姿を認めた徳川が『おや?』という表情で振り返ったのが向田の目に映った。
「待っていてくれたのか」
 ガレージの中、チェイサーから降りた徳川が目を細めた。あまりにも平然としている徳川。向田はやっと笑みを返しながら徳川の後についてガレージを出た。BMWのことに触れる勇気が向田にはなかった。ああ、また同じことの繰り返しだと向田は思った。訊きたいことがたくさんあるのに訊くことができない。目の前にいる遠い存在。


 向田が作った暖かい夕食を徳川は喜んだ。久し振りにまともに仕事をして、健康的な空腹感を感じていたに違いない。
 食後に向田が煎れたコーヒーを飲みながら、徳川は明日から出張だと言った。
「出張って・・・だって抜糸もまだじゃん。風呂とかどうすんの?」
「なんとかなるさ」
「そんな・・・ちょっと待ってよヒロさん」
 セブンスターを一本銜えて灰皿片手にベランダに出る徳川。向田は徳川についてベランダに出た。外の空気は雨の匂いがした。
「オレがついていこうか?仕事の邪魔にならないようにホテルでじっとしててもいいからさ」
 徳川は遠くを見やりながら紫煙を吐いた。色素の薄い徳川の瞳はわざと向田を映さないようにしているようだった。向田は徳川の横顔に語りかけた。
「オレ、解かってる。尾張に行くんでしょう?オレの事件のカタをつけに行くんだよね」
 徳川は灰皿の縁に煙草を転がすようにして灰を落とした。
「松院」
 徳川が松院の目を見た。
「三日の間、俺から目を逸らせ」
「ヒロさん、それ・・・どういうこと・・・・?」
「三日で片付ける。それだけだ」
「どういうこと?片付けるって、どうやって」
「その間に身の振り方を考えろ。こんな俺が嫌なら出て行くもよし、こっちで仕事を見つけるつもりなら、それまで居てもいい」
 徳川は短くなった煙草に口をつけてから灰皿の底にねじつけた。
「おまえも分かっちゃいるだろうが、俺は昔、そのスジの者だった。今でも背中の看板見せれば震え上がる奴が大勢いる。尾張のチンピラ相手にどこまで通用するか分からないが」
「だめだよ!」
 向田は徳川の腕を掴んだ。
「絶対だめ!今は酒屋の社長なんでしょ!?やり直したんでしょ?!昔がどうこうなんて、絶対引っ張り出しちゃだめだよ!」
「こいつが一番手っ取り早い。目を瞑ってくれ」
「弓削さんに任せるって言ったじゃないか!嘘つき!弓削さんに言いつけてやる!電話番号だってちゃんと分かってるんだからね!」
「松・・・」
「真実さんだって怒るよ!化けて出たって知らないからねッ!!」
 徳川の驚いた表情。向田は徳川の胸に額を押し付けた。
「行っちゃだめ・・・行かなくていいよ。オレ、もういいから・・・」
「松院・・・・」
 徳川は柔らかく向田を抱き締めた。
「オレ、怖いよ・・・ヒロさんがもっと遠くに行っちゃうみたいで・・・ヒロさんのこと、わかんないことばっかりなんだもん。雰囲気だって普通のひとと違うし、車だっていつの間にか元通りになってるし。普通のひとじゃないって解かってる。でもオレ、ヒロさんの傍に居たい」
「松院。おまえ、そんな風に・・・」
「帰って来るよね?オレ、ここで待ってるから。大人しく待ってるから」
「必ず戻る。約束する」
 徳川の背中に回した向田の腕にきゅっと力が込められた。
「オレ、ヒロさんが好きだ・・・・」
 腕の中のくぐもった声。しかし徳川の心には向田の気持ちがちゃんと届いた。徳川はしばし躊躇った。向田は自分に対して保護者的な要素を求めてくれているものと思っていたからだ。
 徳川は向田を抱く腕に力を込めた。
「ありがとう松院。ごめんな。こんな奴でも好きになってくれるんだな。俺はとんでもないバチ当たりかもしれない。でも、おまえの気持ちは俺が帰って来るまで取っておいてくれるか?救いようのない罪人崩れの俺みたいな奴にとっては、おまえの優しい気持ちは蜘蛛の糸に等しい。俺はおまえにどれだけ救われているかしれない。待っていてくれるか」
 徳川の腕の中で向田が顔を上げた。その瞳には驚きが滲んでいる。自分の気持ちが受け入れられるとは思っていなかったのだ。
「三日の間、俺は鬼になる。でも今夜までは“仏のヒロさん”のままさ」
 徳川の大きな手が向田の茶色い髪を撫でた。
「で、“仏のヒロさん”は“仏の子”に背中を流してもらいたいなーと思っているのだった。だめか?」
 徳川はいたずらっぽく片目を瞑って見せた。向田がぷっと吹いた。


 その夜も二人は布団を並べて寝た。布団の距離は更に縮まって、手を伸ばせば届くところにお互いが居た。
「真実のことは誰から聞いた?木庭さんか?」
「うん・・・立川さんからも聞いた。ごめん」
「謝ることはない」
 向田は徳川の寝ている方に寝返りを打った。
「訊いてもいい?真実さんて・・・恋人だったの?」
 闇の中、徳川がうーんと唸った。
「そうでもあったし、それだけでもなかったな」
「どんな感じで知り合ったの?」
「雨ン中、立ちん坊をやってた」
「タチンボウ?」
「男娼さ。知らずに声をかけたのが最初だったな」
「ふうん・・・・」
「それまでは男娼なんて縁のない世界だったんだがな」
「でも一緒に暮らせるほど合うひとだったんでしょ?」
「ああ。でも欠点もあった。それが元で死んじまったんだが」
 向田が返す言葉を探していると徳川が続けた。
「スピード狂だったんだ。分かっちゃいたんだが、流行のスポーツカーを買うことを許してしまった。・・・雨の東名で、車の原型を留めないくらいの大事故で・・・いくら悔やんだところであいつは帰って来やしないんだが・・・やっぱり今でも悔やまれる」
 徳川が大きく息をした。
「だからおまえを放っては置けなかった。あのときのおまえは死神の背中を追いかけているようだった。死神を追いかけている間はまだいい。追いついて追い越せば、それが死ぬときだ。真実はそれをやっちまったんだ。俺も肩を並べるところまでは何度もイッたが、生きてるってことは、まだ死神に肩を叩かれていない証拠なんだろうな」
「じゃあオレ、危なかったんだね」
「ああ。相当ヤバかったと思うぜ」
 向田は徳川が背負っている暗い穴の一部を見たような気がした。死神と肩を並べて生きているような、そんな世界。明日から三日間、徳川はその世界に身を投じる。暗い穴に落ち込んで帰ってこないなどということはないだろうか。向田は胸が詰まって泣き出しそうになるのを必死で堪えた。
(仏さん。爺ちゃん。真実さん。清真も。ヒロさんを守ってください)
 暗闇の中、向田は徳川に手を伸ばした。
「ヒロさん、手を貸してくれる?」
「ん?」
「ヒロさんが死神なんて言うから怖くなっちゃった」
 くすと笑って、徳川は右手を差し出した。向田は遠慮がちにその手を握った。つないだ手からお互いの体温が伝わり合う。
「あの・・・さぁ、ヒロさん」
「ん?」
「もうちょっと訊いてもいいかな」
「なんだ?」
「ヒロさんて・・・その・・・女のひと、ダメなの?」
 徳川が咳払いをした。向田は気に触ったのだとびっくりして、
「ご、ごめんなさい。もう訊かないよ!」
「いやいや。そうじゃない。すまん」
タイミングが悪かったなと徳川は断わってから、
「女が怖いんだ。女は化けて出るからな」
「はぁ?」
 徳川は向田の手を握る己の手にわずかに力を込めた。
「夢枕に立つ、というか。綺麗な女が俺の枕元に立っていたんだ」
「・・・・で?」
「おや?と思っていると、すーっと座ってな」
「・・・・・・」
「俺の顔を覗き込んで言うんだよ」
 徳川は声色を変えた。
「ヒロさんごめんね・・・って」
「ぎゃーっ!!」
 向田は布団から転がり出て、徳川に覆い被さるようにして抱きついた。
「や〜め〜て〜よ〜。ちびっちゃいそうだよ〜」
「怖かったか?」
「当たり前じゃん!マジ怖えぇ!」
 徳川が喉を鳴らしてくつくつと笑った。向田が顔だけを上げた。
「ヒロさん。今の話、マジ?」
「信じるも信じないも、おまえ次第さ」
「嫌だぁ〜。嘘だって言ってよ〜」
 しばしの沈黙。向田はなかなか徳川から離れようとしない。徳川は向田の背中をポンポンと軽く叩いた。
「ほら。布団に戻って寝ろ」
 言われて向田はゴソゴソと徳川の布団に潜り込んできた。
「おいおい」
「こっちで寝る」
「まったく・・・そんなに怖かったか?」
「うん」
 徳川の傷に障らないように、向田は徳川の右脇で小さくなって眠った。

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