オヤジスキーどもの穴(連載小説用ブログ)
ゆずかほるの連載小説掲載用ページ。ここに掲載する小説には男性同士の恋愛および性描写が含まれますので、18歳未満の方・BL・やおい・同性愛等に不快感を抱かれる方は今すぐ退散してください。


プロフィール

ユズカホル

Author:ユズカホル
サークル名:BUCK÷STYLE/自称スケベビッチ・オヤジスキー。中学生の頃には既に自他共に認めるオヤジ好きを確立。よって小説の登場人物は平均年齢高め。ジャンルはハードボイルド系JUNE。ちょっと後ろ暗い感じのする小説を書くのが好み。
【イベント参加のお知らせ】
GOOD COMIC CITY 15 への参加が決定しました☆
08年8月30日(土)東京ビッグサイト
配置は東6ホール・タ・15aです。
立派な新刊はありませんが、コピー本だけは持参しようと頑張って執筆してます!内容はヒゲオヤジシリーズの番外編かな?お楽しみに〜v



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5 色葉散る(4/10)
連載小説2 『黍嵐(きびあらし)』
第5章 色葉散る(いろはちる)(4/10)

お読みになる方は、下の read more をクリックしてください。

<余談>
作中、「プレジデント」を「プレズィデント」と表記していますが、
誤表記ではありません。
ドイツ語らしく発音すると後者になるため、わざとそういう書き
方にしています。


 徳川は香奈の店の扉を開けた。ドアチャイムがチリリンと涼しげな音を立てた。カウンターの内には香奈がいて、視線だけを徳川に送ってきた。
 開店前の店内。カウンターの薄明かりの中に白い背中があった。
「Nikolai.」
 徳川が名を呼ぶと、男はショットグラスを片手にゆっくりと振り返った。二人の間に、視線の火花が飛んだ。
 徳川はゆっくりとカウンターに歩み寄った。
 男はショットグラスをカウンターに置いて、スツールから腰を上げた。
 すらりとした、美しい立ち姿。
 彼には『白衣の聖人』という異名があるが、まさにその名の示すとおりの風貌をしていた。
 徳川は立ち止まって腕組みした。
『呼び出されるのはこれが二度目だが。要件は何だ?』
『ヒロ。わたしは、ソウシ=カトウの扱いを誤るなと忠告したはずだが』
『ああ。憶えている』
『扱いにミスはなかったと断言してみろ』
 幾分か強い口調だった。徳川は表情を変えなかった。
『作戦の変更は余儀なくされたが、ミスはなかったと思っている』
『貴様・・・どういうつもりで・・・・』
『任務には、私情を挟まない。あんたもプロだから解るだろう』
『黙れ!!』
 男は物凄い剣幕でカウンターを力いっぱい叩いた。バーンという炸裂音が響いて、カウンターに置かれていた洋酒の小瓶が震えた。
『何故黙っていた!!』
『おまえは部外者だ。話す義務などない』
『プレズィデントにも報告がなかったというのはどういうことだ』
『事件が完全に片付いてから、報告をする。それが組織のルールだと記憶しているが』
『自分のミスを隠し通すつもりだったのか?』
 徳川が一瞬、頬を引きつらせた。
『いくらおまえの言葉でも、それは聞き流せない。極東ブロックの長は、この俺だ。俺の判断で部下を動かし、俺のやり方で任務を遂行する。おまえにとやかく言われる筋合いはない』
 徳川の鳶色の瞳が刺すような視線を送ってくる。
 男は口を引き結んだまま、静かに息を吐いた。
『ヒロ。自分の犯したミスの大きさに気付いていないようだな』
『何だと』
『プレズィデントは、あんたを信じて、ソウシ=カトウをあんたに託した。アカデミーの卒業を間近に控えた幹部候補に、最後の磨きをかける意味であんたに託したんだ。あんたはそれを裏切った』
 男は眉を吊り上げて徳川に詰め寄った。
『あんたが手札を投げてくるまで、わたしは自分の任務の意味を解していなかった。さして大物でもない新鋭マフィアの首領を消すためだけに、何故にわたしが極東まで出向く必要があるのだろうかとすら考えた。そしてあんたは、わたしが手札を投げるまで、わたしが極東入りした意味を解していなかった。いや、今でも解していないだろう』
『どういうことだ』
『いずれ解る。身をもってな』
 男はドアに向かって大股に歩き出した。
『待て』
 徳川は彼の腕を掴んだ。彼は瞬時に徳川の手を振り払い、徳川のこめかみに銃口を突きつけた。
 僅かな沈黙。
 カウンターの内では、香奈が凍りついた表情で成り行きを見守っている。
 徳川は静かに口を開いた。
『おまえの本当のターゲットは俺なのか?』
 怒りに満ちた碧海の瞳が、徳川を睨み付けた。
『組織の戒律さえなければな』
 男は徳川の襟を掴んで、吐息が触れそうなくらい徳川に顔を寄せた。
『わたしはあんたを信じていた。信じて、わたしのルーをあんたに託した』
『ルーだと?』
『ヘル・ルードヴィッヒ=アンハルト。その名の持つ意味を、よく考えるんだな』
 徳川の身体を乱暴に押しやると、男は店から出て行った。

 徳川はしばらくその場に立ち尽くしていた。
 男の白い背中を追い続けているかのように、徳川の視線はドアの方を向いたままだった。
「博康さん」
 カウンターの内から香奈が声を掛けた。
「座ったら?」
 徳川は襟を直しながら、力が抜けたようにスツールに腰掛けた。
 香奈は飾り棚からグラスを取り出した。
「あのひと、怒ることもあるのね。カウンターが割れちゃうかと思ったわ」
 徳川はカウンターに片肘を着いて頭を抱えた。
「ライ・ウィスキーをくれ」
「お湯割りでいい?」
「氷で」
 香奈はオーダーどおりのものを出すと、奥のテーブルを拭きにカウンターから出て行った。

 徳川は頭を抱えたまま、溜息をついた。
 男が最後に言った言葉がループになって脳裏を巡っている。
『彼の本当の名は、ヘル・ルードヴィッヒ=アンハルト』
 その名の持つ意味とは―――
 徳川は苦痛を訴えるかのように、きつく瞼を閉じた。
(終わったな・・・)
 自分が犯したミスの大きさを、嫌というほど思い知らされた。

 統領(プレジデント)の名は、アルフォンス=アンハルト。
 加藤蒼士のファイルには、全く記載の無かった事実―――

 徳川はオン・ザ・ロックに口をつけた。
 きついアルコールが舌を刺し、独特の芳香が鼻から抜けていく。
 カウンターの向こう。男が残していったショットグラスが置かれたままになっていた。
 徳川の脳裏に、彼の姿が蘇っていた。
 すらりとした白い立ち姿。怒りに眉を吊り上げた、美しい顔――
『わたしはあんたを信じていた。信じて、わたしのルーをあんたに託した』
 男の腕を掴んだ手を、徳川は握り締めた。彼の信頼を裏切り、彼を怒らせたという想いが、徳川にとっては何よりも重かった。


 深夜。徳川の住処で有線電話の呼び鈴が鳴った。呼び鈴は二十一回目の途中で途切れた。
 受話器を置いてから、香奈は店の一番奥の席に向かった。程よい硬さのベルベットの長椅子に、徳川が横たわっていた。
 香奈は絨毯の上で膝を折った。徳川の大きな手に自分の華奢な手を添えて、頬を押し当てた。
「帰んないで、このまま・・・あたしの傍にいてよ・・・」
 香奈は、愛しい男の体温を感じながら瞼を閉じた。

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See you next time!

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